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飽き性のくせに次々と新しい設定を妄想して楽しむたかのんの自己満足専用ページ。掲示板にてつらつらと妄想語り進行中。『はじめに』を呼んでください。感想もらえると飛んで喜びます。掲示板は一見さんお断りに見えないこともないけれど、基本誰でも書き込みOKです。
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08:よく言えました、甲洋っ
「……やるか、そろそろ」

春休みも半ばに差し掛かり、そろそろ通学カバンの中に眠る課題たちからのプレッシャーがその色を濃くしてきた時分。
俺はその重圧から逃れるため、そして学生としての本分を全うするため、課題に手をつけることをようやく決めた。

春休みということから、課題の総量自体は多くない。ただ、高校一年生の学習内容を復習するという目的もあるからか、ほぼ全教科に課題が設定されているのが面倒さに拍車をかけていた。
俺にはもったいないくらいに広い自室の床に放り投げられていたカバンから、各教科のワークドリルを取り出す。このワークの問題をノートで解いたのちに提出しろというのが課題なのだ。

俺は適当に数学のワークドリルを選び出し、数学用ノートと共に勉強机の上に広げた。

「えーと、二次関数ね……はいはい……」

さらさらとシャーペンを走らせ、ワークドリルの問題をノートへ書き写す。
設定された数値から頂点を求めて、ピボット打って、グラフを引いて、試しに代入して間違いのないことを確認。
そんな作業を二、三度繰り返した後、俺の心に去来するのは虚しさだった。

「つ、つまらねえ……。葉月はどうしてるんだろう……」

閉じた自室のドアの、その向かいの部屋にいるであろう葉月に思いを馳せる。
真面目な彼女のことだから、課題はもう終わらせているのだろうか。
成績優秀な彼女のことだ。当然集中してパパッと終わらせているんだろうな。

それに比べて俺のなんと集中力のないことか。グラフをちょっと書き上げただけで、もうやる気がだいぶ減退している。
自分で自分の首を締めていることはわかっているのだが、頭と体が別々に動こうとしてしまっていた。

「はぁ……やる気出ない」

誰か俺のやる気スイッチを押してくれないだろうか。
そんな益体もないことを考えながら、俺は机の上に投げていたスマホを手に取り――、

「――ってこれは時間が吸い取られていくやつだ!」

――叫び、スマホをベッドにシュートイン。
いくらやる気が出ないからと言って、スマホに手を伸ばすなど。課題を終わらせようというやつがとっていい行動ではない。その先は破滅しかない。
頭を抱えながら部屋を見回すと、書棚の漫画やらゲーム機やらが無数にうごめく手で俺を堕落へ誘っているかのような錯覚を覚えた。ダメだこの部屋にいたら俺はダメ人間になる。誘惑が多すぎる。

「リビングでやろう……」

リビングには俺を誘惑するものは何もない。自室にいるよりはよっぽど課題の進みも早いだろう。
もしかしたら葉月がテレビを見るためにやってくるかもしれないが、多少の雑音は逆に集中力を高めるとも聞くし、多分大丈夫のはずだ。

そうと決めたら、動くのは早い方がいい。これ以上ここに留まっていては怠惰になるだけだ。
俺はワークドリルとノート、筆箱を抱えながら早足に部屋の出口に向かい、ドアを開け放った。

「あ……甲洋くん」
「葉月」

耳に達したのは、どこか喜色を滲ませながら――と思うのは自惚れだろうか――俺の名を呼ぶ声。
ドアを開けた真正面に、俺と同じタイミングで自室から出てきた葉月がいた。

英字がプリントされたピンクのパーカーと黒のハーフパンツというラフなスタイルの彼女は、小脇に俺と同じくいくつかのワークドリルとノートを抱えている。
ところで、ハーフパンツから伸びる白い生足がとても眩しいですね。いや俺は何を見てるんだ。

「どうしたの?」

動きを止めた俺を怪訝に思ったのか、葉月がこちらを覗き込むように尋ねてくる。甲洋お前この間失敗したばっかだろ。
葉月には「ごめん、なんでもない」と返して取り繕いつつ、俺もまた彼女にある確信を持って尋ねた。

「葉月もリビングで課題やるつもり?」
「うん、部屋にいると集中できなくて」

えへへ、と照れたように笑う葉月。かわいい。

「その様子だと甲洋くんも、だよね?」
「ああ……部屋は誘惑が多すぎる」
「だよねー。それじゃ一緒にやろ、甲洋くん」

葉月はそう一言。そしてにっこり笑う。
へえ。俺のやる気スイッチは外付けだったのか、そうかそうかなるほどね。

なぜか脳内で榛名の口調を真似しながら、俺は自分の内にやる気が迸りつつあるのを強く感じていた。
葉月に誘われただけで、課題をこなすやる気がすごい勢いで上昇して行くようだ。葉月パワーおそるべし。



* * *



「……はい、お疲れ様でした」
「お疲れ様、葉月。色々ありがとう」
「こちらこそ」

葉月パワーおそるべし(二度目)。
リビングに移動したのちテーブルの上にワークドリルとノートを広げた俺たちは、互いの得意分野については教えあいつつ、そうでないところについては協力しながら(といっても葉月は物理に少し苦手意識があるくらいだったが)、ひとつひとつ課題を潰していった。

なんだろうね。男の遺伝子には葉月みたいな可愛い子の前で無様を見せぬよう力を発揮するための本能が刻まれているんだろうか。
ほとんど脇目も振らずに課題に取り組み協力してクリアしていった結果、取り掛かり始めてから三時間ほどで、俺は春休みの課題をほとんど終わらせることに成功したのであった。

「甲洋くん、コーヒー飲む?」
「あ、いいのか? お願いするよ」

課題は終了ということで、これで気兼ねなく春休みを楽しむことができる。
とまあその前に、疲れた頭と腕を休ませるためのコーヒー休憩だ。
葉月のありがたい申し出に感謝しつつ、俺はテーブルの上で乱雑に踊るノート類たちを片付ける。

「葉月、台拭き投げてくれ」
「はーい」

キッチンに立つ葉月が放ってくれた台拭きをキャッチして、テーブルを拭う。
食事ができるレベルの清潔さは確保したな、と頷き、汚れた台拭きを洗うべく俺もまたキッチンへと向かった。

「〜〜♪」
「…………」

キッチンで、機嫌よく鼻歌を歌う葉月をぼんやりと眺める。
ハンドミルで挽かれていくコーヒー豆たちも、葉月みたいな美少女に挽かれるなら本望だろう。葉月ならきっと美味しく淹れてくれるよ。

「……甲洋くん? どうしたの?」

俺がじっと見つめていたことに気づいたのか、ミルを動かす手を止めて葉月が問うてきた。

「いや、どうしたってほどのことでもないんだけど」
「うん?」
「ちょっと今更ながら聞いてみたいことができた」

今まで、流されるようになんとなく認めていたから。
ずっと放置しておいたままだった事柄について踏み込んでみようと、そんなことを少し考えていた。

視線で続きを促す葉月に、俺は出会った当初からずっとスルーしたまま尋ね忘れていた謎を投げかける。

「……なんで葉月が妹で俺が兄貴なんだ?」
「ふふ。聞きたかったのってそれ? 確かに今更かもだね」

軽く吹き出した葉月が、豆挽きを再開しながら俺の問いに答える。

「甲洋くんの誕生日は六月でしょう?」
「ああ……よく知ってるね」

確かに俺の誕生日は六月六日だ。わかりやすく覚えやすいと親友の榛名にも好評である。
だが、葉月がそれを知り得るタイミングなどあっただろうか? よしんば知り得たとして、それを覚えておく理由が彼女にあるのか。
そんなことを思ったけれど、まあ、もう家族なんだし。そういうことなのだろうなと自分で納得する。

「去年、柳生くんと騒いでたのを聞いてたからね。印象深くて」
「あー……なるほどね」

確かに去年の六月六日、朝出会ってもおめでとうの一つも言ってくれない榛名にわざとらしいほどアピールをした記憶がある。葉月の耳にも入っていたのか。恥ずかしい。
その時の榛名は、サプライズでプレゼントをくれようとしていたらしかったのだが、結局俺のあまりのしつこさに途中で我慢ならなくなってプレゼントを投げつけてきたんだったかな。
いい友人を持ったもんである。

「その時は言えなかったけどお誕生日おめでとう。遅くてごめんだけどね」
「いや、嬉しいよ。ありがとう」

わざわざ律儀に祝福してくれる葉月に礼を返して、俺は少し逸れた話題を元に戻した。

「それで、俺の誕生日が六月だとして……葉月はいつなんだ?」
「わたしは九月九日だよ。だからわたしが妹で、甲洋くんがお兄ちゃん」
「そういうことだったのか」

なるほど。それで葉月は妹で、俺が兄ということになるのか。理屈はわかった。
しかし、ちょっとだけ残念な気持ちが芽生えているのもまた事実。

「ふーむ……」
「あれ? もしかして甲洋くん、わたしが姉の方が嬉しかった?」

悪戯めいた笑みを浮かべる葉月。彼女の推論は、あながち間違ってはいない。
姉妹のいない思春期の男子が、姉と妹に憧れるのは至極当然のこと。
俺は幸運に幸運が重なった結果、葉月を義理の妹として迎えることに相成ったわけだから、文句など言おうものなら全国の妹好き男子諸君にブチ殺されてしまうだろうけれども。

けれどもだ。
姉だっていいものだよね。
お姉ちゃんという存在。すでにその響きに包容力が見え隠れしている気がしてならない。
実際に姉がいるやつは「そんないいもんじゃない。現実はひどい」と言って憚らないけれど、それは持つものの戯言だ。

だいたい、姉は自分より先に生まれていないといけないのだ。ひいては妹より得がたい存在と言えるのではないか?

「……葉月は姉でも妹でもどっちもイケると思う……けど」
「けど?」
「姉の葉月も見たかった……かも」

自分の意思を再確認するように静かに言葉を転がすと、隣の葉月が肩を震わせ笑うのがわかった。

「あははっ……甲洋くんって妹よりお姉ちゃん派だったんだ?」
「いや、なんていうか、その、勿体無いっていうか……ええと」

上手いこと説明できないな。なんて言えばいいんだろう。
妹葉月が魅力的であることに異論を挟む余地はないが、そうであるなら姉葉月が魅力的なのもまた否定する要素がないというか、そんな感じだろうか。

「……うん、わかった。わかりました」
「え?」

ぽん、と手を打った葉月が、俺に視線を合わせて笑みを見せる。
相変わらず本当に可愛らしい笑みで、こんな至近距離でこの笑顔を見ることができる自分はどれだけ果報者なのだろうかと思わずにはいられない。

「甲洋(・・)」
「え」

小さく。ぽつりと、葉月が俺の名を呼ぶ。しかしそれは、今までの呼びかけとは意味が異なるもので。

「今日は一日、わたしがお姉ちゃんだよ、甲洋」
「は、葉月……?」

天空橋葉月は快活で、天真爛漫。
俺はずっと彼女のことをそう認識していたし、こうやって深く関わる中でもその印象は全く違えることはなかった。
だけど、今、目の前に立つ彼女は――。

「――だめ。お姉ちゃんって呼びなさい、甲洋」

葉月は、俺が今まで見たことのないほど妖艶な表情で微笑んで。
その白く細い指を、俺の口もとに伸ばしながら、「姉」として振舞って見せるのだ。

「あ、姉貴とかじゃだめですか……」
「お姉ちゃんって言って?」

出来の悪い弟に言い聞かせるように。

「ね、姉ちゃんとか」
「お姉ちゃんじゃなきゃだめ」

意地を張る弟に悲しい顔を見せながら。

「……」
「甲洋」

もう、これ以上抗うのは無理っぽかった。

「あーあ、甲洋は喜んでくれると思ったのになあ。お姉ちゃんは寂しいなー……」

その指で俺の頬をうりうりと突いてくる姉葉月。
俺をからかっているのはわかるが、これはそもそも自分の発言が招いた事態なのだから素直に諦める他ない。

「……………………お姉ちゃん」

どうにかこうにか羞恥心に耐えて、その名を呼ぶ。
……この歳になって「お姉ちゃん」って口に出すことの気恥ずかしさと言ったらないな……。

葉月の方は直視できずに、ちらと様子を伺うように目線を向けると。


「よく言えました、甲洋っ」


年下の弟を褒めるかのように。弾けるような笑顔を見せた葉月を見て。
その可愛らしさと恥ずかしさのあまり、俺の心は死んだ。
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