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飽き性のくせに次々と新しい設定を妄想して楽しむたかのんの自己満足専用ページ。掲示板にてつらつらと妄想語り進行中。『はじめに』を呼んでください。感想もらえると飛んで喜びます。掲示板は一見さんお断りに見えないこともないけれど、基本誰でも書き込みOKです。
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03:えへへ、来ちゃった
「えらいことになってしまった……」

 新しい家族との初顔合わせから一晩明けた翌日。昨日は金曜日かつ終業式であったため、今日から春休みである。
 自室の床に座り込みながら、俺はこれから訪れるであろう新たな生活に思いを馳せていた。

 新たに家族となった天空橋葉月と一つ屋根の下で共同生活。加えて言うならば親はいない。

 一昨日の俺に今現在俺がおかれている状況を語ったとしても「寝言は寝て言え」と返されて終わりだろう。
 それくらいにあらゆることが急転直下のジェットコースター式に進み、そして決定されていった。

 ――甲洋くんにも葉月にも悪いんだが、当分二人で暮らしてくれるかな。
 そう語った陽治さんに対して、俺は大事な愛娘を俺のような男子高校生と同棲させることの愚を説いた。必死に説いた。

「陽治さん、天空橋は見ての通りの美少女です」
「ふぇっ!? こ、甲洋くん……!?」
「そんな可愛い娘さんと、脳みそピンク色な男子高校生を同じ空間においておいたら事ですよ。何か間違いが起こったらどうしますか」

 こんな具合に陽治さんを説得しようとしたのだけれど。
 俺の言を聞いた陽治さんは朗らかに笑って、俺の肩を叩いた。

「そんな君だからこそ、心配はいらないと私は確信しているよ」
「あっはい」
  
 いや……陽治さんみたいなナイスミドルからあんな信頼向けられて首を横に降り続けることは俺にはできなかったね。
 あとその信頼を裏切ったらめちゃめちゃやばいことになるという確信めいた何かが俺の背筋を走った。

 ゆえに。俺、月守甲洋は天空橋葉月との同棲というシチュエーションからはもう逃れ得ないのである。

「ていうか……正直嬉しいですけどね。小躍りしたい程度には嬉しいですけどね」

 何度でも言う。天空橋葉月は美少女である。
 そんな彼女と一つ屋根の下で暮らすという展開は、とても魅力的であることもまた間違いではなかった。
 そもそも同年代の少女と同棲するなんて経験、いくら願おうとそうそう降って湧いてくるものでもない。ましてその相手が学園のアイドルときたら、そんな確率億に一つでも効かないだろう。

「幻滅させないようにしないとな」

 そう呟き、俺は自分の頬を叩いた。気合を入れねば。

「……よし、引越し準備しよ」

 母と俺、我ら月守家のふたりは、長年過ごしたアパートを後にして、天空橋家の住まいであるタワーマンションの一室に引っ越すことが決定している。

 部屋の隅に立てかけられているダンボールを成形し、俺は自室の整理に着手することに決めた。
 思い返せば、小学生の頃から過ごしてきた小さな部屋である。
 今まで世話になりました、なんて感傷に浸りながら、俺は手を動かしていった。

 * * *

「まあこんなところか?」

 俺の部屋はあまり大きくないし、物もあまりないから、荷物自体はダンボール三個分程にまとまった。
 これらの荷物には全部ガムテープを貼って、俺の部屋についての仕事は完了だ。
 物を運んだり座ったりを繰り返したせいで若干疲れの出てきた筋肉をほぐしながらリビングに出て、ソファに
腰を下ろす。
 母の荷物は既に昨晩のうちにまとめられているらしく、部屋の端に幾つかのダンボールが積み重なっているのが見えた。

「後は……なんだ?」

 他に残っている仕事といえば掃除くらいだろうか?
 少し休憩してから手をつけようと決めてソファに寝転がった直後、俺の耳は「ぴんぽーん」と来客を告げる音を捉えた。

 このタイミングで客か。まあ本格的に体が休みに入る前でよかった。
「はいはい待ってくださいねー」と言いつつ、俺は玄関のドアを開け放ち――。


「おはよう、月守くん」


 ――予想だにせぬ人物の来訪を受けた。
 いや、ある意味予想はできたかもしれない。だって目の前の彼女は既に俺の家族であり、義理のきょうだいなのだから。

 誰あろう。天空橋葉月、来襲である。

「て、天空橋……なんで?」
「えへへ、来ちゃった」

 ちろ、と紅い舌を出して悪戯げに笑う天空橋。かわいい。
 来ちゃったなら仕方ないよね、うん仕方ない。
 ……いやそうじゃなくて。可愛いけどそういうことじゃなくて。

「なんで来ちゃったんです……?」
「うん、引越しのお手伝いをしようと思ったの」

 ええ娘や……。
 俺から言える感想はそれに尽きた。
 さすがは我が東明高校の男子生徒人気ナンバーワンの美少女天空橋葉月と言わざるを得ない。
 引越しの手伝いのため、少し前まで大して話したこともなかったクラスメイトの男の家にわざわざ足を運んでくれる女の子がどこにいる? 
 ここにいるんですけどね。

「ありがとう、天空橋。でももうほとんど準備は終わっちまったんだ」
「え、そうだったの? そっか、ちょっと遅かったね……ごめんね」

 いやいやいや、何を謝ることがございますか天空橋さん。
 申し訳なさそうに瞳を伏せる天空橋に、逆にこっちが申し訳ないくらいだ。

「……っと、そ、そうだ。立ち話もなんだし、上がってくれ」

 と、そこで俺は玄関口に天空橋を立たせたままであることに気づいた。
 人をもてなせるほど綺麗な状態ではないが、お茶を出すくらいだったら出来る。

「いいの?」
「もちろん。……まぁ、ある意味ここも天空橋の家みたいなもんだし」
「え? あ、そっか……ふふ、そうだね」

 明日には立退くとはいえ、ここは月守の家であり、ひいてはその家族である天空橋の家でもある……と言えよう。
 俺のそんな思いを汲み取ってくれたのか、天空橋は少しはにかんだ笑みを見せ、言った。

「じゃあ、ただいま……なんちゃって」

「なんちゃって」ってフレーズ好きですよね、天空橋さん。
 そういうとこ、めっちゃ可愛いからちょっと勘弁して欲しかった。



「ごめん、コーヒーしかなかった」
「コーヒー好きだから嬉しいよ。ありがとう」

 ソファに座る天空橋に、片手に握ったマグカップを差し出す。
 天空橋は朗らかな笑みを見せながら礼を返し、カップを両手で包むように受け取った。
 それを見届けたのち、俺もまたソファに腰を下ろす。

 必然的に、俺と天空橋は隣り合う形になった。

「…………」
「…………」

 どちらも声を発さない。
 湯気を放つマグカップの中身に視線を落としつつ、どちらかが口を開くのを待っているーーように思えた。
 何かを喋ろうとは思うのだけれど、何を喋れば良いのかわからない。そんなところだろうか。少なくとも俺はそうだ。
 かと言って、この沈黙が心地の悪いものであるかと問われればそうでもなくて。
 まともに喋ったのなんてきっと昨日が初めてだろうに、俺は既に彼女に心を許しているような気がした。

「…………」
「…………」
「…………」
「……ねえ、月守くん」

 どれくらい沈黙が続いただろうか。
 その均衡を打ち破ったのは、天空橋のどこか不安を湛えたような声だった。
 視線は前方に向けたまま、俺は彼女に応える。

「……どうした?」
「うん、昨日のことなんだけどね」

 母の再婚。再婚相手の連れ子が天空橋。天空橋と当分の間同棲。
 昨日は何もかもが驚きとフリーズの連続だった。今朝も少し夢に出たからね。相当俺の心には衝撃的だったらしい。

「月守くん……私と一緒に暮らすのは嫌なのかなって思って」
「嫌じゃない。嬉しい」
「即答!? でも昨日は……」

 何か悩んでいるのかな、とは思ったがそれか。
 確かに昨日の俺の姿を見たら、天空橋との同棲を必死に回避しようとしているように映るよなぁ……。
 いや実際必死に回避しようとしていたんだが。もちろん今は受け入れる気満々である。
 だが、ここはしっかり誤解を解いておかねばなるまい。

 俺はソファの上に正座し、天空橋にその体を向けた。
 俺の視線を受けた天空橋もまた神妙な顔つきになり、いそいそとソファの上で正座を始める。
 わざわざ他人の奇行に合わせてしまう天空橋かわいい。

「……ごめん、天空橋に少し勘違いさせたかもしれない」
「勘違い」
「正直言って、天空橋と家族になれたことはとても嬉しいです」
「は、はいっ」

 俺の言葉に天空橋が背筋をピン、と正した。
 背筋を伸ばし胸を張るから、畢竟その豊かな胸部が押し出される形になる。圧倒的な視線吸引力だがここは耐えねば。
 本能で下を向こうとする首筋に力を入れ、天空橋の眉間に集中する。ここに焦点を合わせれば胸は視界に入らない。耐えろ俺。
 理性が軋む音を上げているのを感じながら、俺は続けて言葉を紡ぐ。

「だからこそ、折角家族になれたというのに、天空橋にもしものことがあったら申し訳ないなと思ったんです」
「もしものこととは?」
「言わせますか? 男子生徒に」

 そこまで言うと、天空橋は視線を宙に彷徨わせたのち「あー……」となんとも言えない声を漏らした。
 さらに何をか良くない想像をしたのか、頬と耳を朱に染めて「うー……」と声を漏らしながら半眼でこちらを見た。
 天空橋は恥ずかしがりつつ、若干の非難の眼差しを俺に向けている。かわいい。

 そんな風にかわいく唸る天空橋をいつまでも眺めていたかったが、少ししたのち、彼女は大きく深呼吸して平静を取り戻してしまった。残念。

「月守くんの言いたいことはわかりました。昨日の言動にも納得いきました」
「それはよかった」

 天空橋との同棲は魅力的だと声を大にして言える。
 だが、同時に俺は自分が完全に自制できるか、自信が持てなかったのだ。
 それが結局、陽治さんへの説得というあの言動に繋がったわけで。

「……でもね月守くん」
「うん?」

 天空橋が身をこちらに寄せ、耳元で何かを呟く。

「…………月守くん相手なら、もしもが起こってもいいかも」

 耳にかかる声。しっとりと濡れたような息。鼻孔をくすぐる甘い香り。そして極め付けはそのフレーズ。
 全てが俺の思考を絡め取るかのような魔性を放つ。

「なんちゃって。あははっ」

 さっ、と身を引いて。天空橋は楽しそうに笑う。
 本当に、本当に、その「なんちゃって」が好きですよね天空橋さん! かわいいけど体に毒なんですよ! わかります!?
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